2013年05月10日

小説ご紹介:すばらしい新世界

 このブログで小説をご紹介する前に、枕詞として小説に対する私の考えを少々綴らせてもらいます。

 何故、本を読まないといけないのか?という問いに、「想像力を鍛えるため」と答える人が少なくありません。それなら極端な話、官能小説の類や心理学に基づく何らかのプログラムの方が効果がありそうです。勿論、読書の意義は人それぞれなのですが。私自身は、なんらかの非日常を目の当たりにする事で何かを感じるため、であると考えています。例えば、ディストピア小説なんかは所謂中二病のような発想を突き詰めていったらどのような社会が再現されるか、そこで過ごす人は何を感じているのか、を読み取る事ができます。そこで何かを感じたからといって明日から何かの役に立つとは言えませんが、色々な事件・事象に対して考えが深まると思います。ですので、小説に限らず、映画でも漫画でもいいわけです。小説に比べれば、映画・漫画が一般化してから日が浅いので、上述の意味で質が良いのは比較的小説が多いかな、とは感じていますが。

 順番が前後しますが、ディストピアとはユートピア、つまり理想郷の対義語です。具体的には旧ソ連のような思想統制のある全体主義の世界を舞台にする事が多いですが、猿の惑星のような人間が猿に支配されているディストピアもあります。

 ご紹介に当たり、どうしてもネタバレはありますので、ご注意願います。


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 今回は、オルダス・ハクスリーの「すばらしい新世界」(1932)をご紹介したいと思います。拙作「鉄道事業戦略」をプレーされた方なら見覚えがあるかと思います。名古屋マップのシナリオ状況説明で一場面を引用させていただきました。これは、ジョージ・オーウェルの「1984年」と双璧をなす、そしてある意味真逆のディストピア小説だと思います。

 舞台は科学を駆使した未来社会で、全てのものに事足りており全ての人々は生活に完全な満足をしています。消費活動も旺盛で不景気もない。人間は全て人工孵化で家庭を持つ必要がなく、誰とでもセックスし放題。それでも嫌な事があれば副作用のない麻薬「ソーマ」を服用すればハッピーです。まさにすばらしい新世界。

 では、何がディストピアなのか。人間はすべて人工孵化・社会で育児されますが、その段階で全てコントロールされます。薬品の投与等で上級階級向けの人間や労働者階級向けの人間が誕生、と言うよりも生産と言ったほうが正しいでしょうか。そうする事で出世競争も不必要なコンプレックスもなくなるのですが。また、消費行動もここでコントロールされます。例えば運輸機関を使って郊外に旅行させるために、自然を愛する教育を施す、などです。一見すると、人々は確かに最大限の自由と幸福を享受しています。しかし、それはコントロールされたものです。そしてコントロールされている事すら気付いていない。人間として生きる以上幸福を求める権利があるのでしょうけど、そもそもこれは人間なのでしょうか?

 近年、障害等の出生前診断で倫理上の問題について物議を醸しています。私自身、自閉症スペクトラムで健常者に対しコンプレックスを抱いた事もあるのですが、逆に自閉症スペクトラムじゃなければ例えば鉄道事業戦略のようなゲームは作れなかっただろうな、と思うところもありますし。近い将来、これほどコントロールされるとまでは言わなくても、障害を持つ子を産むのが犯罪になりえるでしょう。全員が現代人の平均以上の能力を持つ。それをヨシとするかどうかは、そのときの未来人が判断すればいいと思いますが、現代人が考える人間とは少し異なりそうです。超人類とでもいいますか。

 出生前診断もそうなのですが、思想がコントロールされているようなケースは現代でもありそうです。リクルート事件なんかはマスコミ報道が先行して過熱し、他の贈収賄事件よりも大きな扱いになり検察も引くに引けなくなった、という話があります。専門外なので法的な公平性含めて真偽は分かりかねますが。最近だとL社とかM氏とか、マスコミやネットでえらく過熱してたような。こちらも詳しく調べてないですし法的にどうだったのかも分からないので、自分の中では判断を保留している状態です。

 さて、鉄道事業戦略の名古屋マップ引用「君たちが望もうと望むまいと僕はきっと君たちを自由にしてやる」。これは作中、文明社会に出てきた胎生(!)の野蛮人が文明人に向かって言った言葉です。こう叫んで、文明人が依存する麻薬ソーマを窓から投げ捨てます。当時の名古屋電気鉄道は市内線に依存・固執しており、そこで莫大な利益を上げて好き放題やっていたようです。そのまま依存していれば名古屋市電のような破滅に遭うのに。私の中でこの二つが重なって見えたので引用いたしました。




posted by ぷーすけ at 19:25| Comment(0) | 小説・映画・漫画