2013年07月07日

漫画ご紹介:SF・異色短編(藤子・F・不二雄)

 今回は、SF・異色短編をご紹介したいと思います。拙作でも「間引き」[第1巻収録]の一場面を引用いたしました。
 藤子御大のSF短編は以前から存在を知ってはいたのですが、例の怒り新党で紹介されて買ってみることにしました。この時代の漫画家は良質の短編漫画を多く生み出しています。水木しげるは「劇画ヒットラー」等、手塚治虫に至っては枚挙に暇がありません。

 ここで言うSFとは、「サイエンス・フィクション」ではなく、「少し不思議」の事だと御大は言います。内容は星新一のショートショートのようなものに近いでしょうか。パラレルワールドやディストピア的な世界観で、時には痛烈な風刺をもって救いがたい物語の展開をします。
 個人的に特にお気に入りなのが、カイケツ小池さん[第1巻収録](及びその実質的続編のウルトラスーパーデラックスマン[第4巻収録])とメフィスト惨歌[第3巻収録]です。少し内容をご紹介しましょう。

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 カイケツ小池さんは、一言で言えば脳筋デスノートと言ったところでしょうか。ある日突然超人的な能力を手に入れた小池さんは、自らの信じる正義の元に殺人等を犯すのですが、デスノートのような心理サスペンスはありませんし、罪と罰のように主人公が罪の意識に苛まれることもありません。脳筋ですから。そしてそのエゴイズムが極限まで増長していきます。その先に彼に待ち受けるものとは?
 確かに、小池さんは超人的能力を手に入れて肉体的に非常に強くなりました。しかし、自分を律する精神的な強さは最終的に全く失われてしまいました。悲しいかな、人間は多かれ少なかれこのような側面を持つのでしょうか?

 メフィスト惨歌は、現代社会でうだつの上がらない悪魔と、恋人にも振られた失業者を軸に話が展開していきます。その失業者に悪魔は死後の魂と引き換えに取引を迫ります。運命や如何に(悪魔の)。
 中世なら物が無く、比較的無垢な人間ばかりで悪魔も仕事がしやすかったのでしょう。作中でも以前はパンや酒で簡単に取引できたと嘆いています。しかし、現代社会は物質的な面で非常に豊かになりました。魂と比べれば物なんて月とスッポンも良い所です。そして都会には生き馬の目を抜くような人が犇いています。一体、誰が悪魔なのでしょうか。実に痛快な皮肉です。

 御大の代表作「ドラえもん」はやはり子供向けらしく、牛乳や砂糖をたっぷり加えた優しい味わいのコーヒー牛乳になっています。一方、この短編集は掛け値無し、むしろ濃縮したエスプレッソな仕上がりになっています。しかし、御大の作品は本質的にどちらもコーヒーには違いない、と言う感想を私は持っています。例えば、両作品とも因果応報な展開が少なくありません。根は同じものではないでしょうか。
 また、多様なものの見方があることに気付かせてくれるのも、大きな魅力の一つだと思います。「ミノタウロスの皿」や「気楽に殺ろうよ」[共に第1巻収録]はその象徴といえるでしょう。

 少年マンガの「友情・努力・勝利」という分かりやすいテーマに食傷気味の方は是非読んでみてください。

posted by ぷーすけ at 10:03| Comment(0) | 小説・映画・漫画